ウリザネ(瓜実)条虫について(川崎市多摩区、オダガワ動物病院)
2017.08.01更新
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ウリザネ条虫について(Dipylidium caninum)
写真1 ウリザネ(瓜実)条虫の全体像、目黒寄生虫博物館
ウリザネ条虫の成虫は腸管内で50cm位になります。写真1のように小さな頭節と多くの片節からなって小腸に寄生します。ウリザネ条虫はノミが中間宿主となって感染します。最近はノミ駆除剤がよくなったので診ることは少なくなりました。
犬猫に感染しますが、本院では猫がほとんどです。
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写真2 ウリザネ条虫の片節 250-1000μm
ウリザネ(瓜実)条虫は写真2のような 「米粒のような虫が糞について驚いた。」「さっきまで動いていて気味悪かった。」ことで来院されるケースが多いです。この成熟した片節の発見で十分診断は可能です。体外にでるときは(写真1)の成虫の片節がひとつずつ後ろから切れてでてきます。そのため診断は視診で発見でき、逆に顕微鏡では発見しにくい寄生虫です。また肛門の回りにこの片節が付くこともあります。片節は縦長で排泄間近の時は動きますが時間の経過とともに米粒のように乾いてきます。
またこの片節が消化管内で壊れて検便で卵嚢(写真4)の検出により診断可能な場合も希にあります。
以上ウリザネ条虫は検便では検出が容易でない点、また発見がオーナーの視診によることが多く、罹患した犬猫は臨床症状は少なく、感染率は過小評価になると予想されています。
実際、生前の検便・視診では発見されてない個体を病理解剖すると意外に多く瓜実条虫は発見されています。
■瓜実条虫の人への感染は希にあります。
多くの感染例はありませんが、瓜実条虫は人畜共通の寄生虫疾患です。ヒトへの感染様式はノミを偶発的に誤食することでおきます。そのため飼育しているペットは、毎年、ノミを含めた積極的な定期駆虫が理想です。
ヒトは犬猫と異なり、終宿種ではないので、居心地はよくありません。消化管には感染はないとされています。、体内移行して、希に眼、脳に感染し大変なことになる場合もあります。ヒトへの感染の疑いのある場合は、寄生虫に詳しい医師の診察をお薦めします。(日本医師会のホームページなどで探されるのが良いと思います。)
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円葉条虫類の模式図
(外部・内部寄生虫の駆虫薬 鈴木 透、CAP No294 2013 12より)
ウルザネ条虫は円葉条虫類に属し、頭頂に4つの吸盤があり吻・鉤がありますが、産卵孔がなく、虫卵は便に産出されることは殆どなく片節に溜まることが特徴です。組織内の代謝活性が低下すると後端に近い成熟片節がちぎれ便とともにだされます。(写真2)
備考・条虫類は扁形動物に属し雌雄同体で無体腔動物です。サナダムシは条虫類の俗称です。体表に繊毛があり、この繊毛の運動によって渦ができることからウズムシとも呼ばれています。(高校生物でならったプラナリアと同じです。)体表にクチクラはなく、神経節は存在しますが、循環器官や特別な呼吸器官・消化管持たず、その代わりに片節の外表面に多数の突起があり、こればヒトの腸の繊毛に相当し、体表面積を広げて消化管内にくる栄養物を効率よく食べて生活しています。寄生体が悪影響を及ぼすまでは栄養物はとりません。ウリザネ条虫の『宿主』である犬猫が死亡したら、自分も死亡することを意味するからです。そこで少しだけ頂くことで共存しています。犬猫に被害を及ぼす臨床症状も殆どありません。
写真3 圧迫標本
写真2の成熟片節の発見で十分診断は可能ですが、卵嚢、六鉤幼虫の発見のため2枚のプレパラートの圧迫標本を作成します。(写真3)写真4 卵黄
写真5 六鉤幼虫
写真4,5 圧迫標本の卵嚢と六鉤幼虫虫卵の顕微鏡写真
成熟片節の卵嚢中(写真4)に5-20個の六鉤幼虫が形成されれています。(写真5) ---------------------------------------------------------------------写真6 猫ノミ
生活史に戻ります。ノミが中間宿主です。外界で露出した卵嚢はノミの幼虫(1-3令)に捕食され、ノミ腸内で六鉤幼虫が離脱します。ノミの羽化後10日で尾部をもつ擬嚢尾虫(シスチセルコイド)に成長します。感染後1ヶ月で尾部もなくなり成熟した擬嚢尾虫になりその後ノミの腹腔内に移動します。するとノミの 動作が鈍くなり、犬猫(終宿主)が皮膚をグルーミング時に摂取しやすくなり経口感染します。
その後犬猫の腸管内で成虫になり片節を形成します。片節は1つひとつ続いてできます。最後が一番年寄りです。片節の1つひとつに雄と雌の生殖器があり雌雄同体です。ひとつの片節内でも交尾が可能ですが、他の片節とも交尾が可能です。寿命は栄養状態などで異なりますが約1年です。
すべてのノミに瓜実条虫が感染している訳ではなく、調査よればニュージランドではノミ1578匹に0匹ですが、フロリダではノミ403匹に4匹、オーストラリアではネコノミ4281匹78匹、イヌノミ1092匹34匹に瓜実条虫(擬嚢尾虫)が存在している報告があります。
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■条虫の駆虫にはプラジクアンテルが含有された薬剤が最適です。
中間宿主のノミが再感染すれば、駆虫薬を投与してもウリザネ条虫は再寄生する可能性があるので 、治療は中間宿主のノミの駆除と、ウリザネ条虫の駆虫の2剤併用です。

プラジクアンテルの作用機序はウリザネ条虫は消化管がなく、その代わりに片節の外皮の表面に多数の突起があり、この突起(外皮に作用)より薬剤がはいり、外皮を空洞化してウリザネ条虫の虫体を破壊します。プリパテントピリオドの3週間を考慮し再投与も考えますが、ノミの駆除(セラメクチン、フィプロニール、イミダグロプリドは皮膚滴下、スピノシドは経口剤)を併用すると、プラジクアンテルの投与は1回のみで済むこと多く経験しています。またノミ駆虫ができなとなかなか瓜実条虫は駆虫できません。


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