■犬のジアルジア(Giardia)症
写真① バイエル社資料より
ジアルジア症はヒト(Giardia.Intestinalis、Giardia.Lamblia)、イヌ(Giardia.canis)、ネコ(Giardia.cati)などで種は異なるとされてましたが、最近、遺伝子研究が進み、何れも性質が似てる点が多い結果からすべてGiardia.Intestinalis様の感染に起因する疾患と定義されるようになりました。
よって犬から人へ感染する場合も理論所は希にあります。(写真①)
栄養体(トロフォゾイト)と嚢子(シスト)の2形態からなる原虫です。感染様式は糞から口へシストを経口摂取することによりおこります。ジアルジアはもともと水中で生活した関係で、水分の多い環境では長期に生存しますが、乾燥には弱い特徴があります。
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診断
写真②(アイデックス社資料より)
写真③ 便を直接鏡検したジアルジア、
トロフォゾイト(アメーバ状)とシスト(台形状)
ジアルジアの直接鏡検法の検出率(院内検査法)は
写真②のアイデックス社資料を引用よると
感度27%、特異性31%しかありません。
写真④、特異抗原の検査(スナップ・ジアルジア)陽性例
そこでG.Intestinalisの特異抗原が使用されているスナッツプ・ジアルジアを使用すると、検出率は感度90%、特異性96%と有意に上昇します。(写真②アイデックス社資料)
そのため診断には直接鏡検に加え、特異抗原の検査が大切です。
スナッツプ・ジアルジアを使用した別の報告でも、ジアルジアは全国14ヶ所371頭27種類の犬種の調査では、陽性率は6.7-59.3%と高い値を示しています。
年齢別では1-9ヶ月 54.9%、成犬では30.9%がジアルジア陽性でした。
幼犬を中心に一番犬が感染する寄生虫と推測されます。
スナップ・ジアルジアは犬限定なため、犬以外の動物で便が多くとれた場合は検出率をあげるため、直接鏡検に加え硫酸亜鉛7水和物による浮遊法を使用する場合もあります。下記詳細。
硫酸亜鉛7水和物33.3g/水道水100ml(比重1.18)①液を作成、スピッツ管に便O.5gと①液を1/3-1/2位加え十分攪拌する。
ガーゼ1枚で別のスピッツ管にろ過し、ろ過液に①液を加え管口から1cm位に調節する。
2000-2500rpmで5分遠心すると虫卵、シストは最上層に浮遊する。管口よりかずかに盛り上がる程度まで①液を加え、ただちにカバーガラスを乗せて5-10分間後に鏡検する。硫酸亜鉛12水和物の使用は意味なし、必ず7水和物を購入のこと。
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症例
先日の症例は購入したばかりの子犬が下痢が止まらず来院しました。検便では陰性でしたが、特異抗原検査(スナップ・ジアルジア)では陽性を示し、(写真④)メトロニダゾールの投与でよくなりました。
ジアルジアの吸着円盤が消化管の管腔内壁に付着すると、腸管の栄養を吸収する上皮に吸盤が付着するため、食べ物の吸収がうまくいかず、浸透圧下痢をおこし脂肪便になることがあります。
この症例は下痢の症状がありましたが、特異抗原検査が陽性でも無症状な犬もいます。子犬のジアルジア感染は90%が1歳位になると自己の免疫力で自然治癒する意見もありますが、最近は遺伝子検査によりヒトに希に感染する可能性が指摘されているので、駆虫した法が良いと本院では考えています。
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生活環
生活環は単純でトロフォゾイトとシストの2形態からなります。
感染様式は典型的な糞から口への感染で,シストを経口摂取することにより感染します。
顕微鏡ではトロフォゾイトは直進性運動をしますが、シストは台形様に診られます。(写真②)感染の能力があるのはシストのみです。下痢の激しい疾患では、シストの形成ができずトロフォゾイトのみ排泄される場合もあります。
トロフォゾイトは外界で死滅しますが、シストは排泄と同時に感染力を獲得しますので家庭では早めに便の処置が必要です。特に水分の多い環境では長期に生存します。環境中のシストの除去のため、トイレ、床は可能なら熱湯消毒がベストです。熱湯消毒できないものは日光消毒、アイロンの噴霧機能がお薦めです。犬に下痢便が付いた場合は、シャンプーもよい方法です。なおシストも乾燥には弱く、短時間で感染力はなくなります。
犬猫における生活環の詳細日数は不詳ですが、ヒトではジアルジアはシストの経口感染で、感染後6-15日で典型的な症状がでて、急性期2-4日経過、その後治るか、慢性期に移行するそうです。プレパテント・ピリオドは実験例で犬、5-12日(平均8日)、猫、5-16日(平均10日)と報告されています。
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治療(駆虫薬)
抗原虫薬フラジール®(成分名、メトロニダゾール )(写真⑤)の投与で70%はよくなります。
効果ない場合はチニダゾール(写真⑤)、ドロンタールプラス®(写真⑥)また一部の抗生剤を使用しています。しかし原虫の感染数が多かったり、飼育環境が劣悪だと、次から次と感染がおこり、駆虫薬も効果を示さない場合もあります。そのため上記した消毒との併用は大切です。
単独飼育のときは7日位で回復することをが多いです。多頭飼育の環境(約20頭位)にいるジアルジア駆虫を診療したことがありましたが、同時駆虫薬の使用をおこない、熱湯消毒を徹底させましたが、完全駆虫には半年ぐらいかかりました。
(写真⑤) 抗原虫薬フラジール®(成分名、メトロニダゾール Metronidazole)と
ハイチジン(成分名、チニダゾール、Tinidazole)
(写真⑥)ドロンタールプラス®
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