■猫回虫(Toxocara cati)
当院では猫回虫は多摩川など屋外で保護された猫でときどき診ます。ペットショップから猫を購入された場合はまず診ることは殆どなくなりました。希にヒトに感染する可能性もあり、発見したらすぐに駆虫することがベストです。2006年調べでは1例報告があります。(人が動物の生肉を食べた場合は除く)
家庭では下記の写真2,3の幼虫・成虫状態で発見されます。
動物病院では顕微鏡下で写真1の虫卵の状態でも発見できます。虫卵は1日に2万ー20万個産みますが、産む日と産まない日があり、また便に均一に分布している訳ではないため、1回での検便での検出率は約70%位とされています。
(写真1)猫回虫,虫卵、68-75×60-67μm 顕微鏡所見
(写真2)嘔吐した猫回虫
(写真3)駆虫薬で排泄後の猫回虫成虫、
雄3-7cm 雌4-12cm
他の動物の回虫症は
■犬回虫
■烏骨鶏の回虫症
■ハト回虫虫卵と成虫標本
猫回虫は ①直接被嚢子虫の経口感染、②経乳感染、③待機宿主の補食から感染し幼猫期に多い寄生虫です。 直接被嚢子虫経口感染した場合、猫は犬と異なり、年齢に関係なく気管移行型、体内移行型の両方が起こることが特徴です。
気管移行型(写真4)は未分化卵で外界に排泄したのち①10-30時間で幼虫形成卵になります。②この幼虫形成卵を経口摂取すると1-3時間で小腸にて孵化します。③そして2日間で肝臓・肺に移行します。④6日以後に肺へ移行(第3期幼虫)⑤10-21日で胃・腸に移行(第4期幼虫)します。(2)⑥そして28日で成虫が出現します。⑦56日で虫卵が排泄されます。
猫免疫不全ウィルス感染の症例で回虫卵が時々発見されるのはこの経路のためです。
温度によりますが、糞は1-3週間ぐらいたつと感染卵に変わりますので便は随時処置が必要です。排便してすぐに処理をすれば、他の猫への感染は未然に防げます。プリパテント・ピリオドは諸説ありますが48-56日位で犬回虫よりやや長めの報告が多いです。
体内移行型(写真4)犬と同じような経路を採ると推察されます。しかし猫回虫は胎盤感染がなく、子猫が乳汁を飲み腸管内で直接成虫になる経乳感染が起きます。 猫は補食動物なので、待機宿主(齧歯類など)からの感染が多いとされているが、現在動物病院に来院する9割程が室内飼いのため少なくなっていると考えています。待機宿主からの感染した場合も幼虫は腸管で直接成虫に成長します。寿命は犬回虫と同様1-2年です。
(写真4)
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■駆虫剤
■レボリューション®(ゾエティス・ジャパン、皮膚滴下剤)
成分名のセラメクチンは猫回虫、ノミ、耳ダニの駆除とフィラリア予防が可能です。
6週齢から投与できるため、子猫でノミと回虫がいるときは本院では、好んで使用しています。頸背部の被毛を分け、容器の先端を皮膚に付けて滴下する簡便で確実なスポットオン液剤です。犬回虫には効果ありません。
薬剤が溶解しているぶ形剤(アルコール様物質)にアレルギーを起こして、毛が抜けることが希にあります。
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■プロフェンダー®スポット(バイエル薬品、皮膚滴下剤)
成分名 エモデプシド(Emodepside)・プラジクアンテル(Pragiquantel)の合薬です。
猫と犬の消化管内に寄生する主要な蠕虫すべてのと条虫・吸虫の駆除を目的 とした薬剤で7週齢、500g以上の子猫から使用できます。
条虫・吸虫の駆虫薬プラジクアンテルと線虫駆除剤エモデプシドを配合 した構成になっており、猫回虫、猫鉤虫、瓜実条虫、猫条虫、多包条虫など同時に駆除可能です。 この薬剤は猫回虫には、⑥猫回虫成虫、ほかに④⑤幼虫ステージも併せて約94%の効果を示します。
この薬剤もレボリューション®同様、頸背部の被毛を分け、容器の先端を皮膚に付けて滴下する簡便で確実なスポットオン液剤です。ただし薬剤が溶解しているぶ形剤(グリセリン様物質)にアレルギーを起こして、毛が抜けることが希にあります。
(写真5)レボリューション®、プロフェンダー®スポットどちらも
肩甲間部の皮膚に滴下すれば、終了です。簡単にできます。
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■ドロンタール®
【バイエル薬品、パモ酸ピランテル(Pyrantel)・プラジクアンテル(Pragiquantel)の合薬】
(写真6)ドロンタール®の経口投与で、涎を出して抵抗する猫
ドロンタール®もプロフェンダー®スポットと同様、猫の消化管内に寄生する主要な蠕虫すべてのと条虫・吸虫の駆除を目的とした薬剤です。条虫・吸虫の駆虫薬プラジクアンテルと線虫駆除剤パモ酸ピランテルを配合 した構成になっています。
猫は経口投与が大変な場合もあります。なお投薬後は猫に水を飲ました方が賢明です。薬剤の腸管からの吸収は殆どありません。
パモ酸ピランテルは虫体の神経-筋接合部に作用し、脱分極性神経筋遮断によって感受性寄生虫の組織を麻痺させることにより駆虫作用を示します。
猫回虫、猫鉤虫、瓜実条虫、猫条虫、多包条虫など同時に駆除可能です。猫回虫では主に⑥の猫回虫成虫に効能を示します。
本院では経口投与すると涎を出して抵抗するネコが多く(写真6)、最近はレボリューション®またはプロフェンダー®スポットの使用が殆どです。
以上、どの薬剤を使用しても猫回虫のプレパテントピリオド(経口感染 55-60日、乳汁感染35-42日)を考慮して、2週間位あけて、2回の投与は必要です。稀に人にも感染しますので注意が必要です。
しかしどちらの薬剤も猫回虫には2週間あけて、2回の投与がベターです。
猫回虫に戻る
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■プロフェンダー®スポット(皮膚滴下剤)とドロンタール®錠(経口剤)の駆虫の相違
上記に記した生活史の中で、ドロンタール®錠は主に⑥の猫回虫成虫のみに効能を示します。プロフェンダー®スポットは④⑤⑥のステージの約94%の効果を示し、猫回虫成虫のみでなく幼虫移行症にも効能を示します。
薬剤はグリセリン様物質に溶けているため、希に皮膚にアレルギーを起こして、毛が抜けることもあります。
しかしどちらの薬剤も猫回虫には2週間あけて、2回の投与がベターです。
他に余談ですが、愛護団体、ペットショプで行う、『猫の虫下し』はここに紹介されているレボリューション®、プロフェンダー®スポット、ドロンタール®のいずれかを、獣医師から処方され行われていることが多いです。薬剤により異なりなすが、主に回虫、鉤虫、瓜実条虫などに効能がありますが、他にも猫はトリコモナス、コクシジウム、マンソン裂頭条虫、壺型吸虫などに感染する場合もあります。これらの寄生虫は回虫、猫鉤虫、瓜実条虫とは駆虫剤は異なります。『虫下しは済んでいる。』は一般の方はすべての寄生虫がいないと勘違いしているケースが多くみられますが、以上の理由で100%内部寄生虫がいないことを指す訳ではありません。
またもうひとつ一般の方が勘違いしやす用語で 『検便済み』で購入されることがありますが、これは検便した日の便に寄生虫がいないことを示し、上記同様に100%内部寄生虫がいないことを指す訳ではありません。
寄生虫は卵を産む日と産まない日があるため複数回検便を行う、遺伝子検査、また便の状態など日々の観察が必要です。
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