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犬回虫症(Toxocara canis)とは
ヒト回虫は、戦後はヒトにも多くいましたが、現在、殆どみられなくなりました。
しかし当院では、犬回虫は幼少期に時々診ます。

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1)犬回虫 虫卵 75-80×65-70μm
検便にて顕微鏡で上記のような虫卵が診られます。
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2)犬回虫 成虫 雄3-10cm 雌5-18cm
また 糞便中に上記(
2)のように肉眼で成虫を見つけて来院されるケースもあります。
検便の方が感度は良いです。
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■症状
犬回虫は感染数が少なければ症状はありません。
しかし多数が寄生すると症状は一変し、嘔吐、下痢はじめ、回虫が消化管内で縺れることで腸閉塞になった例もあります。
少数の感染では宿主に害を及ぼしませんが、一度に大量寄生があると命を落とす状態まで進行することもある寄生虫です。
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他の動物の回虫症は
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猫回虫
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烏骨鶏の回虫症
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ハト回虫虫卵と成虫標本
■感染様式
幼犬期の寄生虫疾患です。
犬回虫は①被嚢子虫の経口、②経乳感染、③胎盤感染、④待機宿主の補食で感染します。
鶏の回虫と異なり産卵の季節性はありません。
被嚢子虫の経口感染について解説します。
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3)直後の便 子犬は、未分化卵で回虫卵を排泄します。
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4)2週間後の便(上記写真2枚は本院の庭での実験)
犬回虫卵は25度2週間で感染力をもつ幼虫包嚢卵になります。鶏の回虫と異なり産卵の季節性はありません。
排泄直後の便より、このような便を犬ちゃんが臭いを嗅いかいた場合の方が犬回虫の経口感染は心配です。
また土の中でも幼虫包嚢卵は1-2年生存し、冬場に排泄されても、卵は春先まで生存して新たな感染源になります。 稀に人にも感染します。
待機感染はネズミなどが、幼虫包嚢卵を食べると筋肉内に被嚢します。そのネズミを犬が食べた場合におきる感染様式です。
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生後3ヶ月未満の若い犬が虫卵を摂取すると気管型移行を採ります。(腸管―肝臓―心臓―肺―気管―咽頭―腸管)感染後約2週間で再度腸管に戻り、その後2週間で成熟し虫卵を排泄します。プリパテントピリオド(資料B)は3-4週です。
しかし3ヶ月以上の犬は体内型移行を採り、肺までは移動した後、その後気管へと上行せず、そのまま全身へと血流に乗って拡散される。そして1週間後全身の臓器や筋肉内で肉芽腫に囲まれて被嚢してします。体内型移行が完了した雌犬が妊娠すると、被嚢した幼虫が賦活化して胎盤を通じて、胎子内の肝臓へ移行する(胎盤感染)。こうして生まれた子犬は生後21-24日で虫卵を排出します。また出産後4日目で母体にいる被嚢幼虫は乳汁に移行し、子犬が乳汁を飲み腸管内で成虫になります(経乳感染)。
以上が犬回虫の虫卵は幼犬では出やすいが、成犬からは出にくい理由です。
但し気管型移行から体内型移行への変更時期は必ず3ヶ月前後で変わる訳ではなく、イヌの環境・性差・栄養状態などにより広い幅があります。
なお犬回虫の寿命はおよそ1-2年です。
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■治療
本院ではドロンタールプラス®(資料C)を主に使用しています。裸錠ですが大抵の犬に投薬は可能です。しかし味に敏感な場合は嗜好性のよいイベルメック®(資料D)などのチュアブル錠をフィラリア予防とリンクして使用しています。また最近販売されたプロコックス®も犬回虫の対称になります。
プリパテントピリオド(資料B)が3-4週はなので、1ケ月後に必ず再駆虫してもらっています。
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5)プロコックス®(バイエル薬品)
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資料A ●犬回虫の産卵能力と検便の検出率について。
犬回虫卵は1日の10kg雌犬の推定便量130g中に900-2000個の犬鞭虫卵を産みます。糞1gあたり154-1540個に相当します。直接法で検便を診るとプレバラート1枚当たり便量は2-3mgになり、0.3個-4.6個の犬回虫卵が見れる計算になります。そのため直接法で検便をしても検出率はまずますです。 浮遊法・遠心法の中で最も検出率のよいとされる硫酸亜鉛遠心法(その1・その2)は便0.5gの回収率を50%として計算するとプレバラート1枚当たり39-390個の犬回虫卵が見れる計算になります。
以上犬回虫は単回の検便では検出ができない場合もあり、診断には複数回の検便と硫酸亜鉛遠心法を併用することがベストです。試験的に回虫の駆虫剤を投与して様子を診ることも可能です。
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資料B
子犬に犬回虫が経口感染した場合、プレパテントピリウド注1)は50-60日です。このプレパテントピリウドの期間中に検便してた場合、虫卵は検出されません。感染は成立しても検便では陰性になる訳です。また糞便は、均一分布して、回虫がいる訳ではありませんので、直接糞便検査、集卵法をもちいても見逃す可能性はあります。
注1) 宿主に感染後、虫卵や幼虫を排泄できるまでの期間をさします。犬回虫の場合、卵に効果ある薬剤はないので、卵から成虫になる約30日後に再駆虫します。寄生虫の種類により異なります。
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資料C
ドロンタールプラス錠®(バイエル薬品)
犬用の裸錠で本品1錠中にプラジクアンテル50mg(5-10mg/kg)、パモ酸ピランテル144mg(14.4-28.8mg/kg)、フェバンテル150mg(15-30mg/kg)を含有する。2週齢以上の500g以上の子犬で認可。
パモ酸ピランテルが犬回虫、犬鉤虫を、パモ酸ピランテルとフェバンテルの相乗作用で犬鞭虫を、プラジクアンテルが瓜実条虫を駆除する。メトロニダゾールの誘導体フェンベンダゾールのプロドラックがフェバンテルである。フィラリア陽性犬でも使用可能。
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資料D
イベルメック®(フジタ製薬)
イベルメクチン(5-11μg/kg)でフィラリア予防、パモ酸ピランテル(14.4-28.8mg/kg)で犬回虫、犬鉤虫駆除が可能な合剤でチュアブル錠。イベルメクチンはミクロフィラリアの陰性を確認後投与のこと。チュアブルとは『噛むこと』のチュア(chew)と『できる』の(able)造語です。普通の錠剤は胃で溶けて小腸から吸収されて薬効を示しますが、チュアブル錠は薬剤を噛んでも小腸から吸収できる薬剤形態です。水無しでも投与でき、苦味がなく、嗜好性が良い(イベルメック®で98%)薬剤形態です。なお食事アレルギーの既往歴ある場合はアレルゲンとチュアブル錠内容物の確認が必要になります。美味しいため犬舎の上など犬が届く場所にチュアブル錠を置くと、オーナーの目を盗んで、すべてのチュアブル錠を犬が誤食してしまう恐れがあるため、薬剤管理は大切です。
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●症例
ポメラニアン 雄 4ヶ月です。ペットショップから購入後1週間で、混合ワクチン接種とフィラリア予防で来院した例です。
検便をオーナーに切り出したところ、「便の状態は正常で、検便はペットショップで済んでいる。」との理由で行わず、フィラリア予防薬にはイベルメック®(資料D)を処方しました。そしてこの薬剤は犬回虫、犬鉤虫にも効果のある点も強調しました。
翌朝、オーナーが「お尻から、そうめんのような虫が便と一緒に出た」(
2)ことに驚いて再来院しました。
「検便はペットショップで済んでいるのに何故いるのか。」という質問があったため、回虫など消化管寄生虫は検便の回数が少ないと検出され難いこともあり、そのため昨日検便を薦めた理由も再度伝えました。(資料A、B)
またイベルメック®がフィラリア予防のみではなく回虫の駆虫薬である旨も再度伝え、その後も月1回投与を続けることを指示した。
『検便はペットショップで済んでいる。』を100%虫はいないと勘違いしてしまうオーナーはよくみかけます。ここに示したようなからくりはありますますので注意が必要です。
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