■コクシジウムの駆除剤
コクシジウムは腸管の感染する原虫です。
本院では幼犬、幼猫、幼ウサギ、文鳥、烏骨鶏で経験があります。
無症状でワクチン時偶然発見される場合もあれば、また激しい下痢を繰り返し脱水で死亡することもありました。
コクシジウムにはイソスポラ属とアイメリア属があります。
犬猫はイソスポラ属(オーシスト内のスポロシスト2つ、スポロシスト内のスポロゾイト4つ)で待機感染があります。
犬(Isospora canis、Isospora obioensis )、猫(Isospora felis、Isospora revolta) の2種類の感染
ウサギはアイメリア属(オーシスト内のスポロシスト4つ、スポロシスト内のスポロゾイト2つ)の感染で待機感染はありません。
鳥類はアイメリア属が多いですが、文鳥、カナリアはイソスポラ属です。
しかし両者間に駆虫薬の相違がある訳ではなく、発見したら駆虫剤の投与がベストの選択です。
これまで駆虫剤はサルファ剤が主でしたが、2017年9月に犬のコクシジウムにプロコッカス®(成分名トルトラズリル他)が認可されました。これからはこの薬剤が中心になると考えられます。
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■治療薬
(1)バイエル社の資料より引用
■トルトラズリル
1985年海外でニワトリ抗コクシジウム剤で販売されたのが始まりとされています。日本には2015年9月に豚用で販売されました。コクシジウムの各ステージに対して広く作用を及ぼし、すぐれた効果を発揮します。(1)
犬用は認可済み製剤ですが、本院の使用経験では小動物(猫・ウサギ・文鳥など)に効能外使用で用いた経験では、効果はあるようにおもいます。しかし症例が少なく、使用の際は担当獣医師とよくお話ください。
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■サルファ剤
サルファ剤は一部に硫黄を含んでおり、これが名前の由来になっています。しかし硫黄とサルファ剤は別ものです。1932年、最初にG.J.P.ドマークらによつて合成された薬剤でスルファニルアミド基を持ちます。トリブリッセン®(製造中止)に含まれるスルファジアジンが古典的なサルファ剤にあたります。その後作用時間を延長させたり、また副作用を減らしたスルファモノメトキシン、スルファジメトキシンが販売され現在使用されています。
備考・獣医領域で時々使用する薬剤で、糖尿病のSU剤、アセタゾラミド(利尿剤)、ゾニサミド(抗癲癇剤)などがスルファニルアミド基を持ち これらの薬剤の使用で副作用が診られた場合はサルファ剤投与は注意が必要です。
■サルファ剤のコクシジウムへの作用
サルファ剤は薬理学では抗菌剤ですが、コクシジウム虫体への浸透が良いため使用します。
コクシジウムは下痢でも薬剤吸収はよく、注射剤も経口剤も血中濃度は変わりません。主な効果は抗体産生までの増殖を抑えることで、無性生殖生活環の最後部分のtrophozoite→schizontの後期発育最終段階の抑制で、(1参照)殺虫効果ではありません。免疫状態は動物により異なり、そのため薬用量・期間の報告も教科書により様々です。経験的には駆虫には14-21日間を要しています。
■スルファモノメトキシン(sulfamonomethoxine)
スルファジアジンの1日2回は不便のため、作用時間を長くしたスルファモノメトキシンは1958年頃に販売されました。投与回数の減少(1日1回)、副作用の軽減目的(腎臓のアセチル体の沈殿を少なくしたり)を目的に作製されたスルファジアジンの誘導体です。この薬剤は動物病院ではではコクシジウムの駆除によく使用されてますが、動物での使用は1日2回が良いように感じます。大動物用のダイメトン®という商品名が有名です。ヒト用、犬猫用もないため、小動物診療では現在大動物用を使用しています。
■スルファジメトキシン(sulfadimethoxins)
この薬剤も動物病院ではコクシジウムの駆除に使用されてます。
ヒト用、動物用共にアプシード®という商品名が有名です。ヒト用はシロップ製剤・注射剤はあります。散在は犬猫用はないため大動物用を使用しています。本院では文鳥のコクシジウム駆除に使用していますが上記したトルトラズリルのほうが効果あるように感じています。
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■その他コクシジウム駆虫剤
■アセチルスピラマイシン(Spiramycin Acetate)
筆者はマクロライド系抗生剤のアセチルスピラマイシンも犬猫コクシジウムに使用したことはあります。(ウサギは禁忌)使用した経験ではサルファ剤と同等の効能があるようにおもいます。
医療ではアセチルスピラマイシンはマクロライド系抗生剤です。しかし抗生剤としての価値は低く、産科関係でトキソプラズマ(学名:Toxoplasma gondii)の際に使用される薬剤です。
トキソプラズマはアピコンプレックス門コクシジウム綱に属して動物のコクシジウムと分類が似ています。そのため効能があるのではと筆者は推測しています。
この薬剤は二重盲検などのデーターはなく、開業獣医師の経験的な使用法で『有効』と判断してるに過ぎない薬剤です。そのためエビデンスレベルはサルファ剤より低い薬剤になります。
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