当院では犬の鞭虫症は7ヶ月以上の犬でときどき診られます。 写真の鞭虫卵は、大きさ70-80×37-40μmでグラタン皿様で、成虫は雄40-50mm 雌50-70mmの長さになります。虫卵の経口感染でおきます。軽度では無症状ですが、重症では頻回の下痢、血便を呈しひどい場合は死亡します。注意点として犬鞭虫は少数寄生で下痢が長く続くと虫卵の検出が厄介な場合もあります。都市近郊の動物病院は「犬鞭虫はいない」ことを前提に考える傾向が強く、慢性下痢が治らず二次診療施設を訪れた際、意外に検出されるのがこの犬鞭虫です。そのため犬の慢性下痢には検便は数多く行う必要があります。15回検便を行って始めて検出されたケースも研究会で報告されてました。
なお同様に検便で発見が難しい寄生虫例は猫ではトリコモナスTrichomonas fetusで、
ヒトでは横川吸虫、糞線虫が報告されています。
犬鞭虫卵は外界に強く比較的高温下で発育します。しかし4度以下では発育はしません。一度感染すると1年間は虫卵の排泄がみられ、土壌では5年間は感染能力がある報告もあります。
家の庭、犬が集まる近所の公園が汚染源になり、1回の駆虫では完全に除去はできないことが多いです。
そのため犬鞭虫のプリパテントピリオドの2-3ヶ月を考慮して駆虫薬を再投与する必要があります。
■犬鞭虫卵、理論上の検出率
犬鞭虫卵に感染すると10kg雌犬の1日推定便量130g中に犬鞭虫卵は975-1950個の卵を産みます。
糞1gあたり犬鞭虫卵は7-15個に相当し、直接法で検便を診るとプレバラート1枚当たり便量は2-3mgになり、犬鞭虫卵で0.01個-0.05個の見える計算になる。そのため直接法で検便をしても検出率は高くありません。
浮遊法・遠心法の中で最も検出率の高い硫酸亜鉛遠心法は便0.5gの回収率を50%として計算するとプレバラート1枚当たり犬鞭虫卵は1.8-3.8個の見える計算になります。
以上の理論上では犬鞭虫は単回の検便では検出ができない場合もあり、診断には複数回の検便と硫酸亜鉛遠心法を併用することがベストです。


ドロンタールプラス錠®は犬用の裸錠で本品1錠中にプラジクアンテル、パモ酸ピランテル、フェバンテルを含有します。2週齢以上の500g以上の子犬で認可がありフィラリア陽性犬でも使用可能です。
パモ酸ピランテルが犬回虫、犬鉤虫を、パモ酸ピランテルとフェバンテルの相乗作用で犬鞭虫を、プラジクアンテルが瓜実条虫を駆除します。


本院では犬鞭虫の駆虫によく使用する薬剤でフィラリア陽性犬でも使用可能です。
1日1回で3日間投与が必要です。
写真の左側が日本製です。大動物用のメイポール10®(meiji seikaファルマ株式会社)、右側はアメリカ製のPanacurc®です。日本製は投与量が多くなり使用が大変です。


この薬剤の使用はフィラリア陰性が条件です。フィラリア予防薬の中ではフィラリア予防量と鞭虫駆虫量の差が少ない薬剤です。家庭の庭や散歩コーズが犬鞭虫卵に汚染されている場合は月1回投与のミルベマイシンを増量してフィラリア予防と鞭虫駆除が同時にできます。鞭虫駆除量は犬ちゃんへは過剰な量ではありません。


鞭虫注射用駆虫薬トリザーブ®(成分名メチリジン)は製造中止です。今はありません。