■小動物臨床の条虫類
条虫類は扁形動物に属し雌雄同体で無体腔動物です。呼吸、循環、骨格、消化管はなく、線虫のような激しい運動性もありません。頭節のみ寄生体へ固着しているため、吸溝、吸盤、嘴、小鉤など吸着器官があり、その後方に片節が未熟、成熟、老熟と滑車のように連なって体表にクチクラはありません。
条虫が消化管に寄生したときの片節の繊毛は、寄生動物の腸の繊毛と似たような構造をしています。そして条虫は動物の消化管の『餌』を『少しだけ頂く』ことで栄養を吸収しています。この『少しだけ頂いく』が ポイントで、『多く頂ければ』寄生された動物は下痢・栄養失調などおこし、条虫自身も寄生体を失い一大事です。しかし『少しだけ頂ければ』寄生された動物も生活はでき、条虫にとっても無条件に栄養が採れて好都合です。そのため濃厚感染でない限り下痢など臨床症状がない特徴があります。
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① ②
小動物臨床でよく遭遇する条虫類は、写真①の瓜実条虫に代表される円葉条虫類と、写真②のマンソン裂頭条虫に代表される擬葉条虫類です。
①のウリザネ条虫は体節を排泄するので、便中に「米の様な虫がいる」主訴で、②のマンソン裂頭条虫はカエル・ヘビを補食する癖のある犬猫の検便をして発見されます。最近これら寄生虫はノミ駆除剤の進歩、また室内飼いが多いので本院ではあまり診ません。両者は条虫駆虫剤プラジクアンテルの薬用量が異なります。
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③
(外部・内部寄生虫の駆虫薬 鈴木 透、CAP No294 2013 12より)
前者、瓜実条虫片節の最も重要な点は体壁に子宮孔(産卵孔)がない為、(写真③)片節内の卵嚢内に虫卵が貯まります。そして組織内の代謝活性が低下して、後部の老熟片節が契れて便と共に排泄されます。(写真①)そのため、診断は視診が主で「米粒のような虫が糞についてきた」という主訴で来院します。
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④
(外部・内部寄生虫の駆虫薬 鈴木 透、CAP No294 2013 12より)
後者、マンソン裂頭条虫片節は瓜実条虫に比べて横に約1.5倍長くなっています。体壁に子宮孔(産卵孔)があり虫卵が寄生体の腸管内に排泄される点で、(写真④)片節の排泄は殆どなく、診断にはまず検便が必要な点です。(写真②)
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プラジクアンテル製剤
駆虫剤プラジクアンテルの薬用量は対象にする条虫・吸虫で投与量は異なります。マンソン裂頭条虫を駆虫する場合瓜実条虫の約6倍も必要です。作用機序は条虫の繊毛から侵入して外皮を破壊し、そして内容物を体外へ放出し、主に無機イオンの能動的な移動を阻害して効能を示します。
なお条虫類は神経系の発達は悪く、抑制性神経伝達物質(GABA)は存在しないため、イベルメクチン類は効果を示しません。
条虫の生活史には必ず中間宿主が必要です。再寄生の防止のためにはプリパテントピリオドを考慮した再駆虫より、中間宿主と接触させないことが大切です。