猫回虫(川崎市多摩区、オダガワ動物病院)
2015.04.20更新
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猫回虫(Toxocara cati)
当院では多摩川など屋外で保護された猫で診ます。ペットショップから猫を購入された場合はまず診ることはありません。希にヒトに感染する可能性もあり、発見したらすぐに駆虫することがベストです。
家庭では下記の写真Ⅱ,Ⅲの幼虫・成虫状態で発見されます。動物病院では顕微鏡下で
写真Ⅰの虫卵の状態でも発見できます。虫卵は1日に2万ー20万個産みますが、産む日と産まない日があり、また便に均一に分布している訳ではないため、1回での検便での検出率は約70%位とされています。
(Ⅰ)猫回虫,虫卵、68-75×60-67μm 顕微鏡所見
(Ⅱ)嘔吐した猫回虫第4期幼虫
(Ⅲ)駆虫薬で排泄後の猫回虫成虫、雄3-7cm 雌4-12cm ---------------------------------------------------------------------
猫回虫は ①直接被嚢子虫の経口感染、②経乳感染、③待機宿主の補食から感染し幼猫期に多い寄生虫です。 直接被嚢子虫経口感染した場合、猫は犬と異なり、年齢に関係なく気管移行型、体内移行型の両方が起こることが特徴です。
気管移行型(写真Ⅳ)は未分化卵で外界に排泄したのち①10-30時間で幼虫形成卵になります。②この幼虫形成卵を経口摂取すると1-3時間で小腸にて孵化します。③そして2日間で肝臓・肺に移行します。④6日以後に肺へ移行(第3期幼虫)⑤10-21日で胃・腸に移行(第4期幼虫)します。(
Ⅱ)⑥そして28日で成虫が出現します。⑦56日で虫卵が排泄されます。猫免疫不全ウィルス感染の症例で回虫卵が時々発見されるのはこの経路のためです。
温度によりますが、糞は1-3週間ぐらいたつと感染卵に変わりますので便は随時処置が必要です。排便してすぐに処理をすれば、他の猫への感染は未然に防げます。プリパテント・ピリオドは諸説ありますが48-56日位で犬回虫よりやや長めの報告が多いです。
体内移行型(写真Ⅳ)犬と同じような経路を採ると推察されます。しかし猫回虫は胎盤感染がなく、子猫が乳汁を飲み腸管内で直接成虫になる経乳感染が起きます。 猫は補食動物なため待機宿主(齧歯類など)からの感染が多いとされているが、現在動物病院に来院する9割程が室内飼いのため少なくなっていると考えています。待機宿主からの感染した場合も幼虫は腸管で直接成虫に成長します。寿命は犬回虫と同様1-2年です。
(写真Ⅳ)
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■駆虫剤
■レボリューション® ファイザー株式会社、皮膚滴下剤
成分名 セラメクチンが猫回虫、ノミ、耳ダニの駆除とフィラリア予防が可能です。子猫でノミと回虫がいることは好んで使用します。6週齢の子猫から投与できます。
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■商品名 プロフェンダー®スポット(バイエル薬品、皮膚滴下剤)
成分名 エモデプシド(Emodepside)・プラジクアンテル(Pragiquantel)の合薬で猫回虫、猫鉤虫、瓜実条虫、猫条虫、多包条虫の内部寄生虫をほとんど同時に駆除が可能です。
7週齢、500g以上の子猫から投与できます。
両薬剤とも頸背部の被毛を分け、容器の先端を皮膚に付けて滴下する簡便で確実なスポットオン液剤です。
当院では駆虫にプロヘンダー®スポットを使用します。猫用の薬剤です。
肩甲間部の皮膚に滴下すれば、終了です。簡単にできます。
4週間あけて2回の投与を薦めています。 プロフェンダー®スポットは主に猫回虫成虫のみに効能を示します。 またほかに④⑤の幼虫ステージと⑥の成虫に約94%の効果を示します。
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■ドロンタール®(バイエル薬品、錠剤・駆虫寄生虫はプロフェンダースポットと同じ)
猫は経口投与が大変な場合もあります。虫体の神経-筋接合部に作用し痙性の運動神経麻痺を示しコリンエステラーゼ抑制作用を有します。薬剤の腸管からの吸収は殆どありません。--------------------------------------------------------------------
■プロフェンダー®スポットとドロンタール®錠の駆虫の相違
猫の回虫卵は便と共に未分化卵が排泄されます。
①そして10-30時間で幼虫形成卵になる。
②この幼虫形成卵を経口摂取すると、1-3時間でふ化します。
③2日間で肝臓・肺に移行
④6日以後か肺に移行(第3期幼虫)
⑤10-21日で胃・腸に出現(第4期幼虫)
⑥28日で成虫が出現
◇経口剤は主に⑥の猫回虫成虫に効能を示します。
◇皮膚に滴下するプロフェンダースポットは④⑤⑥のステージでも約94%の効果を示します。猫回虫成虫のみでなく幼虫移行症にも効能を示すのでこの薬剤がお薦めです。
ただし希にぶ形剤(グリセリン様物質)にアレルギーを起こして、毛が抜けることも希にあります。
◇しかしどちらの薬剤も猫回虫にはプレパテントピリオド(経口感染 55-60日、乳汁感染35-42日)を考慮して、2週間位あけて、2回の投与は必要です。
稀に人にも感染します。2006年調べで1例(人が動物の生肉を食べた場合は除く)
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最終更新:平成27年4月20日(火)5時15分
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