皮膚糸状菌の感染(川崎市多摩区、オダガワ動物病院)
2018.05.02更新
皮膚糸状菌とは簡単に語れば水虫のことを指します。専門的な言い方をすれば、現在約40種類知られている真菌の1種類を指し、小胞糸菌(Microsporum)、白癬菌(Trichophyton)、表皮菌(Epidermophyton) 3属のカビの総称です。動物では前者2つの感染が主です。常在菌ではなく、外的な接触により感染します。ケラチンが好きで、これらの多い被毛、爪鉤において増殖して皮膚病をおこします。
適度な温度(15度以上)と湿度(80%以上)のある環境を好み増殖する傾向があります。梅雨から夏は注意が必要とされている皮膚病ですが、当院ではウサギの皮膚糸状菌は、冬場締め切ったマンションで生活している環境で生活している場合にときどき診ます。
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●動物の皮膚糸状菌は主に下記のような4種類がいます。
Microsporum canis大分生子
●Microsporum canis(動物好性菌)
犬の皮膚糸状菌の約70%、猫の99%を占め、ウサギ、フェレットでも希に報告があります。動物→動物、動物→ヒトで感染します。毛が好きな皮膚糸状菌で、テレビでネコと一緒に寝ていておきた皮膚病で紹介されています。
以前にネコを飼育していると、18ケ月は胞子が残り感染の原因になる場合もあります。ネコはMicrosporum canisの運び屋になっているケースが多いです。皮疹は激しくないことが多いですが診断しづらいこともあります。
湿気が多い環境で皮膚・免疫が弱い仔猫、また成猫でも猫白血病、猫エイズなど免疫を低下している疾患に罹患していると発症が診られるケースがあります。
DTM培地では早い段階で赤く変色します。サブロー寒天培地でも発育速度は速く、色調は淡黄色になります。大分生子は表面に粗棘のある紡錘形を示します。先端細く、細胞壁が厚く、薄い隔壁が特徴です。完全世代もありますが、臨床で診られるMicrosporum canis は99%無性生殖です。
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●Microsporum gypseum(土壌好性菌)
犬の皮膚糸状菌の約20%を占め、猫、馬、ウサギで希に報告があります。
土壌→動物でうつる真菌です。昔は穴を掘る外犬の鼻先に見られました。サブロー寒天培地では発育速度は速く、色調は褐色になります。表面に粗棘のある樽型の大分生子で先端深く、細胞壁が薄く、隔壁が特徴です。また梨状の小分生子を示します。
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●Trichophyton mentagrophytes (動物好性菌)
犬の皮膚糸状菌の約20%を占めますが、猫での発生は希です。ハムスター、モルモット、ウサギ、フェレット、ハリネズミの皮膚糸状菌では約90%を占めます。動物→動物、動物→ヒトで感染する皮膚糸状菌で角質好きです。(特に老動物)サブロー寒天培地では発育速度は速く、色調は褐色-黄褐色になります。
大分生子は表面平坦で、棘のない棍棒状・ソーセージ状のずんぐりした形態が特徴です。螺旋菌糸があり、また球状の小分生子を示します。
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●Trichophyton rubrum (ヒト好性菌)
おもにヒトに感染する真菌で、動物はオーナーから感染する場合があります。このTrichophyton rubrumは人で一番よく診られ、皮膚角質が好きな皮膚糸状菌です。本来イヌ、ネコにはいません。
オーナーがTrichophyton rubrumに罹患していて、スキンシップで、ヒトからイヌ、ネコなどに感染したことが考えられます。
サブロー寒天培地では発育速度は遅く、色調は猩紅色になります。
大分生子は表面平坦で、棘のない鉛筆状の形態が特徴です。
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■注意
皮膚糸状菌は人畜共通伝染病のひとつで注意は必要です。動物からヒトへ感染はイヌ(ヨーキーに多い)、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスターなどからも感染しますので注意が必要ですが、免疫機能が正常な方は多く発症する疾患ではありません。ヒトの皮膚も最大の防御システムである皮膚バリアー機能で保護され、外部からの病原体は侵入できないようになっています。 皮膚糸状菌は付着して1日位経過しないと感染性を獲得できませんので、動物を触れた後は手洗い等で十分に予防できます。
しかし垢ずりなどで皮膚をゴシゴシ擦り皮膚に傷が生た場合や皮膚が湿っているときはこの感染時間は早くなります。皮膚を洗うもほどほどが良いみたいで、ヒトでは意外にも清潔志向の高い女性に皮膚糸状菌の感染率が高いそうです。
他にヒトへの感染は動物と一緒に抱いて寝るなど、過剰なスキンシップやヒトの免疫機能が低下していときにおきる場合が多いです。(参考・猫を一緒に抱いて寝て、皮膚糸状菌に感染した幼児の例が2014年6月に放映された日本テレビ系 『世界一受けたい授業』でも紹介されてました。)
NHK2014年11月22日(土)放送チョイス、『あなどれない!水虫』で紹介されていたケースは、ヒトは脚先などに水虫があると、お風呂に入るとき手で触れてしまうことが多いそうです。その湿った手で風呂上りにヒトはパンツをはきます。するとパンツに中は水虫(皮膚糸状菌)の繁殖に適した条件になります。以上の理由でヒトは脚先などの水虫が股間に二次感染することが多いことを皮膚科医が説明していました。
著者も研究会で『ネコ、ウサギの皮膚糸状菌の症例』を発表した際、真菌の専門家から『ウサギに感染する水虫(皮膚糸状菌)が、オーナーの股間から検出されたケースか何例かあるが、おもいあたることはないか』という質問をうけたこともありました。たぶんウサギと遊んだあとよく手を洗わないでオーナーは風呂に入り、上記の理由で感染したと推測されます。
水虫(皮膚糸状菌)の方、また罹患している動物に触れた直後に風呂に入る場合は、十分に手をふいてよく乾かして出るようにしてください。
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●環境
乾燥環境中に落下した皮膚糸状菌は、1~7年間は感染性を保持すると言われています。猫を3世代にわたり長く飼育されている方は、床の埃・絨毯からもMicrosporum canisは高率に発見されます。再感染の多い場合はタオルなど可能なものは捨てることが良いですが、絨毯、ソファーは捨てる訳にはいかないので、掃除器をよくかけることが大切です。消毒は次亜塩素酸の消毒薬の使用になります。色落ちするあるので、猫にはタオルは色落ちしない白系のものを使用してもらうか、また色落ちがすくない次亜塩素酸の消毒薬を使用してもらうことになります。
元祖、次亜塩素酸の消毒液(写真左)と色落ちがすくない次亜塩素酸の消毒薬(写真右)
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