■ 猫回虫 Toxocara cati
( 写真1)猫回虫,虫卵、68-75×60-67μm
当院では 猫回虫は近所の多摩川縁など屋外で保護された猫でときどき診ます。ペットショップから猫を購入された場合は診ることは殆どなくなりました。非固有宿主として、希にヒトに感染する可能性もあり、発見したらすぐに駆虫することがベストです。
■感染経路
猫回虫は ①直接被嚢子虫の経口感染、②経乳感染、③待機宿主の補食から感染し幼猫期に多い寄生虫です。 直接被嚢子虫経口感染した場合、猫は犬と異なり、年齢に関係なく気管移行型、体内移行型の両方が起こることが特徴です。
■診断
検便で診断可能です。( 写真1)
■駆虫剤
頸背部の被毛を分け、容器の先端を皮膚に付けて滴下する簡便で確実なスポットオン液剤です。
成分名のセラメクチンは 猫回虫、 ノミ、耳ダニの駆除とフィラリア予防が可能です。6週齢から投与できるため、子猫で ノミと 猫回虫が感染しているときは本院では好んで使用しています。
この薬剤も頸背部の被毛を分け、容器の先端を皮膚に付けて滴下します。
経口投与剤
ドロンタール®は条虫・吸虫の駆虫薬プラジクアンテルと線虫駆除剤パモ酸ピランテルを配合した構成になっています。プロフェンダー®スポットと同様、猫の消化管内に寄生する主要な蠕虫と条虫・吸虫の駆除を目的とした薬剤です。
もっと知りたい猫回虫(Toxocara cati)
■ 猫回虫
他の動物の回虫症は
■ 犬回虫
■ 烏骨鶏の回虫症
■ ハト回虫虫卵と成虫標本
猫回虫と同じ線虫類に分類されます。本院の地域では 猫鉤虫の感染は希です。成虫は♂10-11mm、♀12-15mmで 犬鉤虫よりやや小型で細長く、交接刺が長いことが特徴です。白色の細長い虫で小腸粘膜に食いついて猫の血液を吸って栄養にしています。そのため罹患した猫は、動物病院来院時は軟便や血便の症状を多く診ます。
また重症化すると貧血、栄養不良を伴い子猫は死亡する場合もあります。
■感染経路
糞便とともに外界に第3期感染幼虫を含む虫卵として排出され、その経口感染でおきます。
また鼻粘膜。皮膚の毛穴から体内に入り感染することもあります。
猫回虫同様、胎盤感染、経乳感染もおこします。
どに感染経路でも、何れも小腸に寄生します。
■診断
検便で可能です。( 写真5)
■駆虫
猫鉤虫の駆虫は線虫類の猫回虫と同じで、上記で説明したプロフェンダー®スポット、ドロンタール®錠などが使用されてます。現在は注射液のジソフェノールは使用されていません。
猫鉤虫が経口感染したときプレパテント・ピリオドは14-21日と報告されており、この期間を目安に再投薬が必要です。
もっと知りたい猫鉤虫(Ancylostoma tubaeforme)
■ 猫鉤虫
他の鉤虫症の動物は
■ 犬鉤虫(Ancylostoma caninum)とは
■ 猫のコクシジウム(coccidium)
(上、未感染卵、下、感染卵)
(Isospora felis、虫卵40×30um
・Isospora rivolta、虫卵18-28×16-23um)
■感染経路
猫のコクシジウムはイソスポラ科(オーシスト内のスポロシスト2つ、スポロシスト内のスポロゾイト4つ)の経口感染でおきます。
猫のコクシジウム は仔猫で頻回の下痢があったときは、死亡する可能性が高い寄生虫です。しかし最近は無症状で偶然、糞便検査で発見されるケースが多いです。
■診断
検便でコクシジウム、オーシストを発見します。( 写真6)
■駆虫
駆虫は猫用に認可された薬剤はありません。一般的には サルファ剤の投与になりますが、駆虫まで時間のかかる点や、環境因子などで効果に個体差があることが欠点です。
( 写真7)プロコックス®
そこで2017年に発売された犬用の抗コクシジウム剤 プロコックス®の投与が良いとされてますが、まだ使用例が少ない点が欠点です。
■環境
排泄されたオーシストを含んだ便は1日経たないと感染型になりませんので、早く始末することが大切です。また猫の便に残っているオーシストが猫砂に付いき、その砂が猫の足に付着して、舐めて再感染がおきる場合もあります。そのため多頭飼育で駆虫は時間がかかる場合もありました。
オーシストは消毒薬には抵抗を示すので、使用した器具は熱湯などかけるのが最適です。
もっと知りたい猫コクシジウム(coccidium)
■ 猫のコクシジウム
他の動物のコクシジウムは
■ プロコックス、猫のコクシジウムへの使用例
■ 文鳥(学名:Padda oryzivora)のコクシジウム(Coccidium)
■ ウサギのコクシジウム症について
■ 犬用コクシジウム駆除剤、プロコックス®が販売されました。
■ 猫トリコモナス Trichomonas fetus
動きが早く確定には至らなかったので、ライトギムザ染色して診断した。
■診断
動物病院でよく使用する直接検便ではトリコモナスは14%と検出率がよくありません。そこでRealPCR検査という遺伝子検査をする場合もあります。この遺伝子検査ですと86%のトリコモナスは診断可能です。
本院の症例では6ヶ月-1年の間の猫が慢性の大腸性下痢になり来院します。西洋猫で感染を多く感じます。
トリコモナスは感染猫の90%が無治療で2年以内に改善しますが、その後生涯キャリアとなります。そのため2歳以後でも、基礎疾患があると、トリコモナスは陽性のこともあります。私の経験では食事アレルギーの5歳猫猫で、また肝臓疾患、心臓疾患などがあった5歳の猫で発見されたこともありました。この場合駆虫も大切ですが、基礎疾患の治療が優先します。
■駆虫
トリコモナスは抗原虫薬の定番メトロニダゾールが効能を示さないことが多いので大変です。
また100%治る薬剤はない考えられています。チニダゾールを本院では使用していてある程度は効果あると考えています。海外では、ロニタゾール(日本なし)がよく効く報告があります。
■環境
トリコモナスの排泄便は、次の感染の源になります。すぐに処理する必要があります。
シストは作らないので、乾燥下での状態は長く生きられませんが、多頭飼いの場合はなかなか完全駆除にいたらず注意が必要です。
もっと知りたい猫のトリコモナス
■ トリコモナス(Trichomonas)感染の仔猫の下痢。
■ 5歳猫のトリコモナス
■ 難治性の幼猫の下痢、遺伝子検査で発見された猫トリコモナス症(Trichomonas fetus)
他の動物のトリコモナスは
■ 鳥類の検便
■ ネコ、瓜実条虫(Dipylidium caninum)
( 写真9)便に白くて小さな虫(2-3mm)が混ざって出てきたため来院した1歳雄の日本猫。(⇒が虫体)
■診断
この寄生虫は臨床症状は殆どなく①獣医師の視診や、②「米粒のような虫が糞について動いて気持ちわるい。」というオーナーの主訴、③ 虫体を押捺し、標本中に卵黄と中に六鉤条虫が診られたことから診断します。
当院の症例は殆どネコですが、イヌやフェレットにも感染します。また希にヒトも非固有宿主として感染する可能性もあります。
■感染経路
ノミが中間宿主で、感染するとか痒いため、皮膚を口でグルーミングし、そのとき経口感染します。
当院では屋外で飼育されてる場合や沢山ネコを飼育されているオーナー宅で診られることが多いです。
■治療
ノミとウリザネ条虫の2つの駆虫が必要です。特にこの寄生虫の駆除には中間宿主の ノミ駆虫が必須で、当院ではフィプロニール・セラメクチンなど皮膚滴下剤を投与しています。ウリザネ条虫の駆虫にはプラジクアンテルが最適です。注射・経口・皮膚滴下などいろいろな投与が可能です。
もっと知りたい猫の瓜実条虫(Dipylidium caninum)
■ ネコ、瓜実条虫
■ 瓜実条虫(Dipylidium caninum) について
他の動物の条虫は
■ 文鳥(学名:Padda oryzivora)の条虫(Taenia)感染
■ ハムスターの小型条虫
■ マンソン裂頭条虫(Spirometra erinaceieuropaei)
55-65×30-40μmで非対称性虫卵
マンソン裂頭条虫は擬葉条虫類に属し、頭節の背腹両面中央に縦に走る扱溝があることが特長です。
吸盤、吻など固着器官はありません。体壁に子宮孔(産卵孔)があり虫卵が腸管内に排泄され、ウリザネ条虫のように体節の排泄は殆どありません。
そのため診断にはウリザネ条虫のように視診ではなく検便が必要です。
■生活史
中間宿主を2つもちます。虫卵から出た幼虫は第一宿主のミジンコの体内で成長し、次にカエル、べビなど第二宿主捕食され体内で成長し、終宿主の犬猫に食べられることを待ちます。
第二宿主はカエル、ヘビはじめ、たくさん存在します。第二宿主間で捕食される場合もあり、これを待機宿主といいます。待機宿主から終宿主に食べられる場合もあります。
■注意点
駆虫はプラジクアンテルを使用します。瓜実条虫の約5倍量で可能です。1回の駆虫でほぼ完治はします。投与量が多くなるので、注射液の使用が最適です。
しかしマンソン裂頭条虫は再寄生がら虫卵排出まで7-10日と早く、外に出てカエル・ヘビを食べる癖のある犬猫はすぐに再感染が診られ注意が必要です。
もっと知りたいマンソン裂頭条虫
■ マンソン裂頭条虫
■ 壺型吸虫 (Pharyngostomum cordatum)
■生活史
中間宿主は2つもちます。第一中間宿主の小さな淡水産巻き貝のヒラマキガイモドキで、第二中間宿主はカエル、ヘビ、オタマジャクシなどになります。第二中間宿主を犬猫が捕食することにより寄生が成立します。本院の症例はすべて猫です。
■駆虫
駆虫はプラジクアンテルを使用します。瓜実条虫の約6倍量で可能です。投与量が多くなるので注射液の使用が最適です。
もっと知りたい壺型吸虫
■ 壺型吸虫
他の動物 消火菅の寄生虫
■ 犬の消化管寄生虫
■ ウサギの消化管寄生虫
■ 鳥の検便
■ ハムスターの検便
【関連記事】
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