猫ヘモプラズマ(川崎市多摩区、オダガワ動物病院)

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■ 猫へモプラズマ
(旧名 猫ヘモバルトネラ、猫伝染性貧血)




猫の赤血球に寄生したヘモプラズマ(青い点)

 写真のヘモプラズマは、以前リケッチア類による猫ヘモバルトネラ症と考えられてきました。また猫伝染性貧血とも呼ばれていました。しかし、遺伝子研究の発達で、真正細菌のマイコプラズマの遺伝情報を受け継ぐことが多いことが発見され、現在猫ヘモプラズマ症と名称変更になりました。
 
 猫がヘモプラズマに罹患した場合、元気消失・食欲低下・黄疸・間歇的な発熱、溶血性貧血などの臨床症状を呈します。なお犬でもヘモプラズマ感染はありますが希な疾患です。
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■感染様式
また不明な点も多くありますが、ノミ・ダニの媒介、輸血、喧嘩で感染が可能性が示唆されています。そのため屋外の猫に多く診られます。実験では猫がノミに刺された場合、数週間で感染が診られる場合もあります。
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■診断
血液塗抹標本で写真のように赤血球の膜表面上に単一、症例によっては連銭した、青~紫色の好塩基性に染色される斑点(0.3~0.8μm)がヘモプラズマです。この血液塗抹標本から探す方法は古くから行われていますが、ヘモプラズマは周期的(2-7日間隔の報告も)にしか赤血球に染色されないため、33-50%の感度しかないことが欠点です。

 そこで最近は遺伝子診断が使用されています。すると感度は87%に上昇します。
ヘモプラズマは3種類の菌種、Mycoplasma haemofelis、Candidatus Mycoplasma turicensis、Candidatus Mycoplasma haemominitusの混合また単独の寄生しておきます。この中でMycoplasma haemofelisが最も病原性が高い菌種です。Mycoplasma turicensis、Mycoplasma haemominitusは病原性は低く、感染があっても、症状がひどくなるケースは少ないです。血液塗抹標本上ではこれら3つの区別はつきませんが、 遺伝子診断では3種類の区別も可能です。しかし検査費は高くなる点、結果がわかるまで7日位かかる点が短所です。
 検査センターで集計した遺伝子診断の結果は、約33%(個体数91例)も陽性がありましたが、重度の貧血の症状を示すのはそのうちのわずかでした。以前は猫白血病・猫エイズに関係して発症あると考えられてきましたが、Mycoplasma haemofelisはこれらに関係なく感染します。

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ヘモプラズマ遺伝子診断の結果

本院の経験では春から夏に診られ、冬場は殆ど来院はありません。喧嘩のよる感染が示唆される場合や、また猫白血病、猫伝染性腹膜炎、猫エイズ陽性の症例は重傷化しやすい傾向はあります。年齢別に考察すると4歳未満の猫は、重傷例、再発症例が多いですが、4歳以上になると重傷例は多くはありません。
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■治療
臨床症状がない猫はヘモプラズマが発見されても1-2週間で自然治癒する場合もよくあります。また殆どの症例は1-2週間の投薬で駆除されることが多いです。
 治療剤はテトラサイクリン系抗生剤、第二世代のドキシサイクリンがファーストチョイスになります。ドキシサイクリンの投与ができない症例はニューキノロン系のエンロフロキサシンも考慮します。症例によっては赤血球の溶血を抑制する目的でプレドニゾロンの短期投与も必要です。
 重傷化するケースは進行が早く2-3日でDIC(急性ショック症状)を併発して死亡する症例もあり、上記の抗菌剤・プレドニゾロンに加えてや輸液、輸血の併用が必要な場合もあります。
 以上ヘモプラズマの治療は診断後、重症度に関係なく、臨床症状、赤血球数やHt、Hbを測定をして、経過を追った対応が大切です。
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■ドキシサイクリン塩酸塩(doxycycline hydrochloride, DOXY)とヘモプラズマ
ドキシサイクリン塩酸塩の商品名はビブラマイシン®が有名です。分子量は大きい薬剤ですが油性で、細胞内に入り蛋白合成を阻害する特徴があるため、細菌のみではなくヘモプラズマ、クラミジア、リケッチア、マイコプラズマなどに対しても活性が認められます。半減期が長く、元祖テトラサイクリン抗生剤に比べて少ない回数で効能が期待できます。

◆治療の注意点
①猫は食道の運動が弱い為、ドキシサイクリン塩酸塩の錠剤を飲ませたあと水をあげないと、食道狭窄の原因のひとつになります。
②粉砕投与は薬剤の味が悪く、嘔吐、流涎、食欲不振の原因になり、うまく投与できないことが多いです。
③幼少期(筆者は犬猫では6ヶ月以内と考えている。)ではテトラサイクリン系の抗菌剤の投与は歯のエナメル質に付着するため普通控えたほうが良いです。(参考・ヒトでは8歳以内の子供にはそれなりの理由がないと投与しない薬剤です。)
④元祖テトラサイクリン抗生剤は腎臓排泄ですが、ドキシサイクリン塩酸塩は肝臓、腎臓が多少悪くても使用できます。
⑤元祖テトラサイクリン抗生剤は吸収の関係で同時に投与できない薬剤もありますが、ドキシサイクリン塩酸塩は殆ど影響をうけません。
⑥元祖テトラサイクリン抗生剤は猫に対して発熱の副作用がある見解もありますが、筆者の経験上ドキシサイクリン塩酸塩ではおきていません。

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■エンロフロキサシン(Enrofloxacin)とヘモプラズマ
ニューキノロン系抗菌剤のエンロフロキサシンもヘモプラズマに効能はあります。商品名は犬猫用バイトリル®が有名です。錠剤のみでなく、フレーバー錠があるので、猫には食べやすく工夫されています。なお他のニューキノロン系抗菌剤のヘモプラズマへの治療効果はよくわかっていません。
◆治療の注意点
①猫はエンロフロキサシンの投与量を多くすると、10万分の1の確率で眼に盲目の障害がおきる可能性があります。残念ですが盲目の発生は投与前はだれも予想はつきません。
②能書に「猫は開始および使用年齢に制限なし」の記載があるように 猫は犬・ラット・マススと異なり幼少期に投与しても軟骨に異常を示さないと考えられています。エンロフロキサシンを幼少期投与したときの軟骨の形成異常は動物差があります。
③腎臓排泄なので、腎臓が悪い場合は投与量の減量が必要です。
④ニューキノロン系抗菌剤は吸収の関係で同時に経口投与できない薬剤もあり、時間を変える必要があります。
◆参考・ベージック講座 ニューキノロン抗生剤と幼少期
ニューキノロン系抗菌剤は犬、ウサギ、ハムスターでは幼少期に軟骨形成が異常になる場合があり使用はしない方が良いです。
ヒトでも基本的に犬、ラット・マススの実験報告からニューキノロン抗生剤は幼少期は使用を慎んでいます。しかしヒトは幼少期の軟骨形成異常の発生はなく、一部のニューキノロン製品は必要な場合は幼少期に認可されている製品もあります。猫はヒトと同様の傾向があるよう筆者は考えています。

 


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