犬鞭虫症とは(川崎市多摩区、オダガワ動物病院)

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犬鞭虫症とは Trichuris vulpis


■ 犬鞭虫、虫卵
大きさ70-80×37-40μmのグラタン皿様です。

■ 犬鞭虫、成虫
雄40-50mm 雌50-70mmの長さになります。
(目黒寄生虫博物館より)

●感染
感染様式は後天的感染のみです。虫卵の経口感染でおき、腸管で成虫になり虫卵を排泄します。気管型移行、体内型移行はなく、腸管のみで生活環を過ごします。 (胎盤感染、経乳感染、待機宿主からの感染もありません。)
 当院のある川崎市多摩区では、鞭虫感染は7ヶ月以上の犬でときどき診られる位です。
 
●症状
軽度では無症状ですが、重症では頻回の下痢、血便を呈し、ひどい場合は死亡します。

●疫学
 郊外の自然豊かな場所で発生は多いですが、
注意点として犬鞭虫は少数寄生で下痢が長く続くと虫卵の検出が厄介な場合もあります。
 
都市近郊の動物病院は「犬鞭虫はいない」ことを前提に考える傾向が強く、慢性下痢が治らず二次診療施設を訪れた際、意外に検出されるのがこの犬鞭虫です。そのため犬の慢性下痢には検便は数多く行う必要があります。15回検便を行って始めて検出されたケースも研究会で報告されてました。鞭虫駆虫剤を試験的に投与することも大切かもしれません。
なお同様に検便で発見が難しい寄生虫例は 猫では トリコモナTrichomonas fetusで、 ヒトでは横川吸虫、 糞線虫が報告されています。

 

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犬鞭虫卵
 
犬鞭虫卵の厄介な点は、外界に強く比較的高温下で発育します。しかし4度以下では発育はしません。
土壌では5年間は感染能力がある報告もあります。
家の庭、犬が集まる近所の公園が汚染源になり、1回の駆虫では完全に除去はできないことが多いです。そのため犬鞭虫のプリパテントピリオドの2-3ヶ月を考慮したり、フィラリア予防薬ミルベマイシン(下記参照)を増量して、エンドレスで駆虫薬を投与する必要があることも経験しています。
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犬鞭虫卵、理論上の検出率
犬鞭虫卵に感染すると1年間は虫卵の排泄がみられ、10kg雌犬の1日推定便量130g中に犬鞭虫卵は975-1950個の卵を産みます。
糞1gあたり犬鞭虫卵は7-15個に相当し、直接法で検便を診るとプレバラート1枚当たり便量は2-3mgになり、犬鞭虫卵で0.01個-0.05個の見える計算になる。そのため直接法で検便をしても検出率は高くありません。
浮遊法・遠心法の中で最も検出率の高い硫酸亜鉛遠心法は便0.5gの回収率を50%として計算するとプレバラート1枚当たり犬鞭虫卵は1.8-3.8個の見える計算になります。
以上の理論上では犬鞭虫は単回の検便では検出ができない場合もあり、診断には複数回の検便と硫酸亜鉛遠心法を併用することがベストです。----------------------------------------------------------------------

犬鞭虫駆虫薬について


ドロンタールプラス錠®(バイエル薬品株式会社)

ドロンタールプラス錠®は犬用の裸錠で本品1錠中にプラジクアンテル、パモ酸ピランテル、フェバンテル(フェンベンダゾールのプロドラック)を含有します。2週齢以上の500g以上の子犬で認可があり フィラリア陽性犬でも使用可能です。
パモ酸ピランテルが犬回虫、犬鉤虫を、パモ酸ピランテルとフェバンテルの相乗作用で犬鞭虫を、プラジクアンテルが瓜実条虫を駆除します。

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フェンベンダゾールFenbendazole

本院では犬鞭虫の駆虫によく使用する薬剤で フィラリア陽性犬でも使用可能です。
1日1回で3日間投与が必要です。
写真の左側が日本製です。大動物用のメイポール10®(meiji seikaファルマ株式会社)、右側はアメリカ製のPanacurc®です。日本製は投与量が多くなり使用が大変です。

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ミルベマイシン®(第一三共製薬)

この薬剤の使用はフィラリア陰性が条件ですフィラリア予防薬の中でフィラリア予防量と鞭虫駆虫量の差が少ない薬剤です。家庭の庭や散歩コーズが犬鞭虫卵に汚染されている場合は月1回投与のミルベマイシンを増量して フィラリア予防と鞭虫駆除が同時にできます。鞭虫駆除量は犬ちゃんへは過剰な量ではありません。

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トリサーブ®

鞭虫の注射用駆虫薬、トリザーブ®(成分名メチリジン)は製造中止です。今はありません。

 
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