猫免疫不全ウイルス(通称、猫エイズ)とは(川崎市多摩区、オダガワ動物病院)

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■ 猫免疫不全ウイルス(通称、猫エイズ)とは


猫免疫不全ウイルス(以下FIV)はレトロウイルス科 レンチウイルス属の感染でおき、これまで世界中で発見されています。タイプがA,B,C、D、E、Fと6種類あります。ヒトエイズと病態が似ているので通称『猫エイズ』とも呼ばれています。なお『猫エイズ』はヒトには感染しません。FIV検査は新たに猫を飼育した場合や、去勢・避妊手術の前にFeLV、FcoVと併せて健康状態を把握することで行うことをお薦めしています。

FIVに感染しても猫は急死することは幼猫期を除き殆どありませんが、長期的には免疫が抑制されて猫の寿命は短くなる傾向になります。咬傷が主要な感染ルートなため、縄張り争いなどで喧嘩の多い雄猫は雌猫にくらべて2倍の感染率があります。室内飼育猫と室外飼育猫、また健康猫と慢性疾患猫をくらべると前者は高いFIV陽性率を示します。そして年齢の増加とともに感染率は上昇する傾向にあります。国別の感染率を調べるとスイスでは1%、北米では1-5%、ニュージーランド9%ですが、猫を飼う文化があって、国土が狭い日本、イタリアは12%もの感染率があります。我が国ではこの結果が礎で猫の室内飼いが薦めるられるようになりました。私の動物病院のある川崎市多摩区では、開院した20年前は約半分は外猫でしたが、ここ10年は猫20匹中1匹ぐらいの割合でしか外猫は来院しません。

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■感染様式

水平感染
咬傷が主要な感染ルートです。感染猫の血液、血漿、唾液などにウイルスが存在します。咬んだ猫の口腔内に出血を伴う病変がある場合は伝播効率が高まります 。グルーミングや食器を介した感染はありません。同居猫には派手な喧嘩がなければ感染はおこらず、まずおきません。交尾による異性間感染 生殖器を介した感染は明らかではありません(精液中にウイルスは存在しますが。)交尾時雄は雌の首筋を噛んでおこなうのでそのため感染すると推定されます。
垂直感染
  乳汁中にウイルスは存在しますが、母猫から子猫への周産期の感染は少ないです。母猫の感染時期やウイルス株の性状が影響します。

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■感染経過
 咬傷
に侵入したFIVウイルスは、皮膚樹状細胞で増殖して、その後もリンパ球、単球、マクロファージ等に感染します。特にウイルスを排除しようとして活性化したCD4陽性Tリンパ球に感染します。FIV感染Tリンパ球はアポトーシスにより死滅し、長い年月をかけてヘルパーT細胞が枯渇して免疫不全に陥ります。感染後4-8週で抗体は陽性になり、血液からウイルスが分離されます。
 FIV感染はヒトエイズ同様治すことはできませんが、ヒトのエイズ治療と同様、次のステージに進まないようにストレスをなくすことで長生きできたケースもあります。

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写真1 FIV陽性で5ヶ月の猫、猫カゼは治らず死亡例

そのためFIV感染後の臨床徴候に基づき 5 病期に分類され今の状態を把握することが大切です。最初に見られるのは急性期(AP期)で抗体陽性とほぼ同時に発熱・好中球減少・リンパ節腫脹の症状が見られ、数週(1-2ヶ月)~数ヶ月(12ヶ月)持続します。成猫ではこの状態を把握できない場合もありますが、幼猫はこの時期に細菌性肺炎、腸炎で死亡する場合もあります。( 写真1)急性期の臨床症状がなくなると無症状キャリア期 (AC期)に入ります。この時期は2-4年位で無症状キャリア期から年間18%が次のステージに進むとされいます。現状ではこの時期を認識しQOLを高めることが重要です。発症のサインを早期に察知できるよう注意します。すべての猫が発病してこの先のステージにいく訳ではありません悲観的にならないことも大切です。その後、持続性リンパ節腫大期(PGL期)に入り 全身のリンパ節が腫脹 しは2-4ヶ月続きます。またこの時期から様々な臨床症状がみられます。

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写真2 FIV陽性で口内炎の症例

次にエイズ関連症候群(ARC期) に入ります。この時期は平均5才(個体差多い)でおき数ヶ月~1年位続きます。リンパ節腫脹、慢性の口内炎( 写真2) 慢性の呼吸器病、皮膚病などがおき、その後エイズ期(AIDS期) に入ります。ARC期の症状に加え、削痩、貧血 、 白血球減少、悪性腫瘍などが起きます。CD4陽性Tリンパ球の減少がおき、 日和見感染が原因で慢性難治性の疾病に悩まされ、猫の身体的・精神的な負担になることが多いです。

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■診断・予防

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写真3 FIVの検査 陽性例 左側に青い点が見れます。

 FIVの検査は血清診断が一般的です。( 写真3)ELISA、免疫クロマト法およびウェスタンブロット法によりFIVの構成蛋白に対する抗体を検出します。血液より15分で診断できます。注意点として母猫がFIV陽性だと子猫は6ヶ月までは移行抗体の関係で陽性と表示されることはあります。この場合はFIV感染とは考えにくい場合が多く、臨床症状とあわせて考慮する必要があり7ヶ月以後に再検査が必要です。しかし母猫から子猫への胎盤を通じてFIV感染はない訳ではありませんが症例は少ないです。( 写真1)

最も確実な予防はFIV感染猫との接触を防ぐことです。また新しく猫を飼う場合にはウイルス検査を行うまで隔離する必要があります。検査をして陰性なら猫を屋内で飼育すればFIV感染は殆どありません。また闘争の防止のため避妊、去勢手術を行うことも大切ですが、去勢・避妊手術の前にFIV検査(FeLV、FcoVと併せて)をして手術前に健康状態を把握することは大切です。
 FIVに対する不活化ワクチンが市販されていますが、6つある型のうち一部の型にしか防御効果はありません。この点を了解いただければ、屋外にでることがある猫にはワクチン接種が推奨されます。ワクチン接種猫の注意点として、現行の検査キットでは抗体陽性となり、実際に感染している猫との鑑別が困難になります。特別なELISA検査による鑑別が必要です。あらたな動物病院を受診する際にはオーナーがワクチン接種歴を正確に把握することが大切です。


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